米国における現地法人の設立に関しては、Corporation、LLC、Partnership、Limited Partnershipなどの法人形態を選択することになります。LLCの特徴はpass-through taxation(パススルー課税)ですが、米国LLCがパススルー課税を選択する場合、日本の親会社が米国の課税対象となり、税務調査の対象となる可能性があるほか、日本の税務上の取扱いとして、米国LLCは外国法人とみなされ、損益通算を行うことができないと解されていることから[1]、パススルー課税によるメリットは限定的です。
現地法人の設立に関しては、法人形態のほかに、どの州法に基づいて会社を設立するかを選択する必要があります。法人設立州(state of incorporation)と事業拠点州(state of doing business)は別個のものとすることが可能であり、全米で事業活動を行う規模の大きい会社である場合には、設立州としてデラウェア州を選択することが多いです。これは、デラウェア州会社法上、事業運営における柔軟性及び有限責任の保護が促進されていること、設立・解散等の手続が効率的に整備されていること、判例の蓄積による企業活動の確実性と予測可能性が確保されていること等が理由です。他方で、1つの州を超えて事業を拡大する計画がない場合(レストラン1件のみの経営等)[2]には、事業活動を行う州の州法に基づき設立する方が手続面・費用面ともにメリットがあると考えられます。
Corporationを設立するには、基本事項を定めるarticle of incorporation(基本定款)を作成し、州に提出します。その際、設立州を選択し、商号を選択し、当局からの連絡や訴状の送達等を受けるregistered agent(登録代理人)を選任する必要があります。その後、第1回取締役会を開催し(書面決議の方法で簡略化されることが一般的)、会社の内部規約であり基本定款を補完するbylaws (附属定款)を制定し、officer(役員)を選任し、株式の発行、銀行口座の開設等の承認決議を行います。
LLCを設立するには、基本事項を定めるcertificate of formation(基本定款)と内部ルールを定めるoperating agreement(運営契約)を作成します 。運営契約は、決議方法、財産の分配、利益・損失の割当といったメンバーの権利義務のほか、メンバーの加入・脱退、合併その他の組織変更、解散事由といったコーポレート・ガバナンス等を規定するものです。
法人設立後は、株主総会・取締役会の開催と議事録・決議書の作成、法人記録の維持・保管、州への年次報告申請(annual filing)が求められ、これらを登録代理人や代行会社等を通じて行うことになります。
また、米国で行う業種によっては、州から発行される許認可(ライセンス)の取得が求められることになります。食品分野に関しては、連邦機関であるFDA(米国食品医薬品局)が管轄するFSMA(米国食品安全強化法)やその他州法に基づき登録が必要とされる可能性があるほか、医療機器、酒類販売なども許認可が必要とされる可能性があることから、連邦法・州法をそれぞれ確認する必要があります。
さらに、日本から赴任する役員や駐在員については、各種就労ビザ(E-1(貿易駐在員)ビザ、E-2(投資駐在員)ビザ、L-1(企業内転勤者)ビザ、H-1B(専門職)ビザ)を、現地のImmigration Lawyer(移民法を取り扱う弁護士)等に事前に相談し、準備を行う必要があります。
[1] 国税庁「米国LLCに係る税務上の取扱い」( https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/31/03.htm )
[2] 日本貿易振興機構(ジェトロ)シカゴ事務所ビジネス展開支援課「米国で会社を設立する際によくある法律面での質問(FAQ)」(2022年3月)7-8頁