第1 米国EC実務対応
2022年の世界のBtoC-EC(企業と個人間のEC(Electronic Commerce、電子商取引))の市場規模は5.44兆USD(1USD145円換算で、約788兆円)で、2026年には7.62兆USD(約1105兆円)まで増加すると予想されています。2022年の国別EC市場シェアによれば、中国が50.4%、米国が18.4%、英国が4.5%、日本が3.1%で、中国と米国だけで世界全体の70%弱を占めています[1]。
また、2022年の日本・米国・中国3か国間の越境ECの市場規模を見ると、中国の消費者が越境ECにより日本企業の製品やサービスを購入した金額は2兆2569億円(前年比5.6%増)、米国の消費者が越境ECにより日本企業の製品やサービスを購入した金額は1兆3056億円(前年比6.8%増)であり、歴史的な円安を背景に、日本企業は、越境ECを通じて海外への製品・サービスの販売を増加させています。
本稿では、「EC」の意義に関して、OECDの定義に倣い、製品・サービスの受発注がインターネットを介した電子的な方法で行われるもの、と定義します。
もっとも、「越境EC」という場合、その取引態様には様々なバリエーションがあり、厳密には、自社ウェブサイトから(すなわち日本から)販売するのか、AmazonやeBay等の現地インターネットショッピングモールに出品するのか、現地法人を設立して現地で自社ウェブサイトから販売するのか、輸出・販売代行業者に委託して行うのかなどを区別して検討する必要があります。
第2 FTC法に基づく不公正・欺瞞的な行為又は慣行の禁止
米国では、連邦取引委員会(Fair Trade Commission。以下「FTC」といいます。)が、ECビジネスに対する規制を行っています。その守備範囲は広く、消費者保護(景品表示法を含む)、プライバシー保護、競争政策をカバーしており、日本の公正取引委員会、個人情報保護委員会、消費者庁を合わせたような監督当局であるといえます。
FTCは、事業者の不公正・欺瞞的な行為又は慣行を規制し、それらのビジネスから消費者を守る権限を有しています。具体的には、商取引における、又は商取引に影響を及ぼす、不公正又は欺瞞的な行為又は慣行は違法であるとされています(”Unfair or Deceptive Acts or Practices”、FTC法第5条(a)(1)後段)。これには、外国の商取引も含まれるとされていることから、日本企業もFTC法の域外適用を受ける可能性がある点に注意が必要です(FTC法第5条(a)(4)(A))。
「欺瞞的」行為とは、「①当該状況において合理的に行動する消費者を、②誤認させる可能性の高い表示、不表示、慣行であり、③当該表示等が重大(material)であること」と定義されています(FTC「欺瞞に関する方針声明」1983年10月14日)。
「不公正」な行為とは、「①消費者によって合理的に回避可能でなく、②消費者に実質的な損害(substantial injury)を与えるか、または与える可能性があり、③当該実質的損害が、消費者又は競争に対する利益によって上回られないものであること」と定義されています(FTC法第5条(n))。
欺瞞的行為の規制が日本の景品表示法上の不当表示規制(景品表示法第5条)や独占禁止法上の欺瞞的顧客誘引規制(独占禁止法第2条第9項第6号ハ・一般指定第8項)に類似するものであるのに対し、不公正な行為の規制はより広い観点からの消費者保護、プライバシー保護の規制であると整理できます。
FTCは、命令に違反した事業者から民事罰を徴収できるほか、FTC法第5条に違反し、不公正又は欺瞞的な行為又は慣行であり禁止されていると実際に知っていたか、または客観的な状況に基づき認識していたことが相当に暗示される場合には、連邦地方裁判所に提訴した上で、民事制裁金[2]を請求することができます(FTC法第5条(m)(1)(A))。その他にも、行政処分として、排除措置命令(FTC法第5条(b))、裁判所に対する差止請求(FTC法第13条(b))などの措置も規定されています。
第3 グリーンウォッシュ及びダークパターン
FTCは、製品が環境に配慮しているかのように誤認させる問題(いわゆる「グリーンウォッシュ」)に関し、環境に関する表示指針(グリーンガイド)の初版を1992年に公表し改定を重ねてきましたが、2022年12月に新たな改定に向けたパブリックコメントの募集を開始しており、注目に値します。
また、FTCは、消費者が気付かない間に不利な判断・意思決定をするよう誘導する仕組みを持つウェブデザイン[3](いわゆる「ダークパターン」)についても取り締まりを強化しています。
[1] 経済産業省「令和4年度電子商取引に関する市場調査報告書」102頁(2023年8月)( https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/statistics/outlook/230831_new_hokokusho.pdf )
[2] FTCは毎年1月にインフレを踏まえて民事制裁金の上限額を調整しており、2024年1月10日以降、FTC法第5条違反に対する民事制裁金の最高額は違反ごとに51,744米ドルです(16 C.F.R.§1.98(d)(連邦規則集第16編第1.98条(d)))。
[3] 消費者庁「景品表示法検討会報告書」第2の2(4) (2023年1月13日)( https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/meeting_materials/review_meeting_004/assets/representation_cms212_230302_01.pdf )